カーストについての誤解あるある

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インドについて、多くの人が誤解しているのではと思われることがあります。私も周りの人によく質問されるのです。

「インドって、カーストは禁止されたのに、まだ差別は残っているんでしょ?」と。

カーストの話はとても複雑なので、こういう質問を受けるたびにどう説明すれば良いか迷ってしまうのですが、実はこの質問、半分は正解で、半分は誤解なのです。

確かに、インド社会ではまだまだカーストに基づく差別が残っています。
ところが、実はインドではカースト制度自体は禁止されていないのです。

カースト制度は禁止されていない

2月末、北インドのハリヤーナー州(デリーの隣の州)で大きな暴動が起こりました。日本でも報道されたようなので、ご存知の方も多いかもしれません。
この暴動の参加者は「ジャート」と呼ばれるカースト(※)の人々で、自分たちの社会的な優遇を求めて当初はデモをしていたのですが、歯止めが効かなくなり、ついに死者を出す暴動にまで発展してしまいました。
(※正確にはカーストではなくジャーティと呼ばれる集団ですが、詳細を書くと眠くなるような話になるため、語弊を承知でここではカースト=ジャーティと書きます)

これだけ読むと、「カーストは禁止されたのに、やっぱり今でも制度や差別は残っていて、だから暴動が起きるんだ」と思うかもしれません。

ですが、冒頭にも書いた通り、インドはカースト制度自体は廃止しておらず、今でもカーストはアイデンティティーのひとつとして多くのインド人の中に根付いています。カースト制度の特徴の一つは、同集団間での婚姻です。そのため、近年少しずつ変化していると言われますが、今でも多くの人は自分と同じカースト間でお見合い結婚をするようです。

 

さて、じゃあインド憲法が禁止したのは何なのか?
その答えが、ずばり、カーストに基づく差別です。自分の出身カーストによって相手を差別したり差別を受けたりしないこと。また、不可触民を差別的な呼称で呼ぶことも禁じました。
一方で、「これまで差別されていたカーストの人々は、その格差を是正するため優遇しましょう」という制度も設けました。彼らの多くはこれまでの差別で教育も受けられず、経済レベルも圧倒的に低い状態で、自力での状況改善は無理だと思われたからです。
この政策は留保制度と呼ばれ、学校の入学試験や公務員の採用に、これまで差別されていたカーストの人々(指定カースト)の優遇枠を設けて格差の是正を目指しています。

この政策がカーストを基準に対象者を決めていることからもわかるように、インドのカースト制度は今でも、インド社会に必要なものとして存在し続けています。

かつての不可触民をガンディーは「ハリジャン(神の子)」と呼びました

かつての不可触民をガンディーは「ハリジャン(神の子)」と呼びました

留保制度は逆差別なのか

「でも結局、その暴動はカースト差別への不満で起こったんでしょ?」という声が聞こえてきそうですね。
ですが、実はそれも違うんです。確かに、地域によってはいまだにカースト差別が残っていて問題視されていますが、今回の暴動の背景はカースト差別とは少し異なります。

指定カースト(元・不可触民)に対する留保制度は、後に「その他の後進諸階級(Other Backward Classes)」、略してOBCにも拡大されることになりました。両者の違いを簡単に説明すると、めちゃくちゃ差別されていたのが指定カーストの人たちで、けっこう差別されていたのがOBCの人たち、って感じですかね。

この二つの集団への留保枠の割合を合わせると、約50%になります。つまり、国立大学の入試の定員が100名だとしたら、うち50名分は指定カーストとOBCに割り振られるということです。
これに対して、かつて上位や中間くらいに位置していたカーストの人々は、「半分も割り当てるなんて逆差別じゃないか!」と憤りました。

これが、今回の暴動の背景です。ジャートというカーストは農業を生業にしてきた集団ですが、小作人ではなく土地持ちの富農が多く、歴史的に見ても差別を受けてきたとは言えません。つまり今回の暴動はカースト差別による暴動ではなく、留保制度のせいで逆差別を受けていると訴える人々が起こした暴動なのです。

雑誌でも特集が組まれるほど大きな暴動でした

雑誌でも特集が組まれるほど大きな暴動でした

 

留保制度にはこのように大きな問題もありますが、差別の根強かったインドでは格差是正のために必要悪な制度であると私は考えています。ただ、この制度のせいでカースト差別が完全になくならない状況を生み出していることも、事実だと思います。
いずれにせよ、この制度をいつまでも続けることは出来ないでしょうし、将来的にはインドの発展の足かせになる可能性もあります。

今後、この留保制度をどうしていくべきなのか・・・。もしかしたらインドは今、方向性の転換期にあるのかもしれませんね。