ヒーローになること ~インドっていいなぁと思った1コマ~②

インドいいなぁの一コマ

「インドに行けば人生観が変わる」なぜか、そんな都市伝説のような言葉があります。もちろん、そんなのはあくまで伝説でしょう。人生観なんて変わる時は近所の公園を散歩してても変わるでしょうし、世界の果てまで行ったって全く変わらないこともあるでしょう。

強いて言えば、日本人にとってカルチャーショックを受けやすいか否かで言えば他の国と比べたらインドは多いのかもしれません。まぁ、それも個人差も大きいでしょうし、それすらイメージだけかもしれないですが。

ただ、実際あるタイミングでインドを訪れ、何かしらの縁で実際に「人生観が変わった」と自他共に認められるような人はいます。

今回、一人紹介してみようと思います。

学生時代にインドを訪れ、急激な進路変更

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学校で授業するくるちゃん

上の写真の彼、くるちゃんは2010年の11月から翌年の3月までの4カ月プリーのサンタナ・ロッジに滞在していました。一番の目的は大学で学んでいた日本語教育の現場体験を踏むことで、サンタナの現地小学校C.S.アカデミーで日本語教師のボランティアをしてくれていました。その傍らサンタナ・ロッジなどの各種イベントも率先して盛り上げてもくれていました。

彼は片方の髪だけ垂らしたちょっとキザな(ごめん!)髪形でインドに現れました。(その後坊主にしました)出会ってすぐに、コルカタのゲストハウスの屋上でビールを飲みながら話しました。国際協力や日本語教育を学んでいるから現場で経験を積みたい、将来はオーストラリアの日本語教師になるのが夢です!と語ってくれました。

他者に囲まれながら大奮闘!

授業を行うくるちゃん

その後、実際に学校で元気すぎる子供たちに揉まれながら、サンタナ・ロッジでは今まで出会ったことのなかったバックパッカーに揉まれながら過ごしていました。学校でも持ち前の明るさと一生懸命さで盛り上げてくれると同時にゲストハウスでも見送りの時にギターで見送りソングを歌ってくれたりと大活躍でした。

学校では最初遊びすぎたためか、舐められてしまったかもと悩んでもいました。でも、そうでありながらも前に進もうとする姿を見せてくれていました。

当時の彼のブログから一部抜粋します。

今日は一番コミュニケーションが難しいと感じていた7年生の授業でした。というのも7年生はまだ僕を先生とは認めてくれていないようで一番厚い壁を感じていました。そのため前日から入念に授業の計画を立て絶対失敗しないようになんどもイメージトレーニングを重ね授業に臨みました。今日こそいい授業を行って子どもたちとの関係性をよりよくしたい。そう強く思いました。

授業法も失敗を反省に変えてみてとにかく理解度を優先した授業を行いました。7年生は皆熱心に授業を聞いてくれなんとか授業を終えることが出来ました。すると授業を終えて間もなく、1人の女の子が僕にこう言いました。

「親切な授業をどうもありがとう。」

彼女はかつて僕にこう言ったことがあります。「あなたは先生ではない」と。そんな彼女がわざわざ僕にありがとうと伝えに来てくれた時、今までの努力が全て報われた気がしました。

と、課題を見つけたら逃げることなく全力でぶつかっていく姿勢をいつも見せてくれていました。

くるちゃんの授業の様子

ちょっと気になったくるちゃんの夢

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学生団体と共催したイベントで日本のアニメのプレゼンをするくるちゃん

常により良くしようと思う彼の気持ちは随所に見られました。それは学校の生徒たちだけでなく、先生との関係、そしてゲストハウスでの役割でもそうでした。多くのボランティア・スタッフを見てきたフォクナをして

「今までで一番良かった」

そう言わしめていました。

ただ、一つ気になることがありました。彼の夢についてでした。

彼が夢を語る時、何かしらの違和感と言うようなものを感じていました。自信満々に語るのですが、何か今やっていることの延長だから、もしくはそういえば何となく他の人の聞こえがいいから、語っているようにも聞こえていました。

学校ボランティアツアーで多くの学生がいた頃

学校ボランティアツーの様子  学校ボランティアツーの時の一コマ

その頃、学生の休みである8月と3月には学校でのボランティアツアーを開催しておりました。当時そうしたメンバーでその日に会ったことをシェアしたり、感じたことを伝え合う夕礼と称したミーティングを行っておりました。

ある日のテーマは「夢」でした。その時も彼はオーストラリアでの日本語教師になる夢を語っていました。その夢を語る自分に正直、若干酔っているようにも感じました。

二人になった時にそれとはなしに聞いてみましたが、特になんということはありませんでした。

一人の時間も増やしていったくるちゃん

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静かなるウッドストック

ただ、それくらいの時期から彼は前以上に一人になる時間を増やしていました。ウッドストックというビーチ沿いの素敵なカフェにノートとペンのみを持って通っていました。学校でもゲストハウスでも人に囲まれています。自分で一人になる時間を作らなければ一人にはなれません。

学校で一生懸命に先生をやり、ゲストハウスでは多くの人と語り合い、そして一人になる時間も大切にしていました。

ヒーローになる

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とある日の夕礼の様子

くるちゃん自身、もう間もなく帰国というある日。夕礼が始まる時間に急に彼は言いました。

「ちょっと良いですか?」

10人近くのメンバーがいました。今まで、ちょっとでもその場の空気を壊すような発言はしない彼でしたのでちょっとビックリしました。そしてこんな話をしてくれました。

「私は今まで自分の夢をオーストラリアの日本語教師になると語っていました。でも、それは本当の夢ではありませんでした。やりたいことの一つだったのです。」

その場に居合わせた皆はどういう顔で聞いたら良いのだろうと思い、戸惑っているようでした。彼は構わず続けました。その日もウッドストックで一人で自分と向き合っていたこと、そして夢がわかった、とちょっと照れながらでも覚悟した顔で語りました。そして彼はおもむろにこう言ったのです。

「私の夢は、ヒーローになることです。」

そのままの言葉を言いました。

その時の状況を鮮明に覚えています。聞いてた人たちは、ともすると「痛い」言葉ともとれる、20歳を超えた男の「ヒーロー」発言。しかし彼が醸し出しているリラックスしつつでも本気、そんな雰囲気に飲まれていました。更に彼は続けました。

「昔から戦隊者や仮面ライダーなどのヒーローものが好きで、勇気や元気を与えてくれるヒーローにずっと憧れていました。それを今日改めて思い出しました。私は、見た人に勇気や元気を与えられる俳優になります。」

その後、夕礼がどうなったかはあまりよく覚えていません。ただ、涙が止め処となく流れていたことだけは覚えています。関わってきた仲間の「本当の瞬間」に触れた時間でした。神聖とも言える瞬間でした。

帰国して一カ月後のブログに

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帰国直前にホーリーを楽しむくるちゃん

程なくして彼は帰国していきました。彼が日本に帰ってから一カ月ほど経った後に書いてくれたブログにはこうつづられていました。

大きな喜びはもう一つあります。それは自分を見つめ直し、成長出来たことです。誰しも他人には知られたくない側面があると思います。でも、その自分の弱い部分をまずは自分自身が知ってあげなくてはなりません。この4カ月での全ての経験を通していままでよりもずっと自分のことを知ることができたと思っています。

自分のことをより知っていったくるちゃんはその後、大学卒業してから劇団への入団と進路を決めていきました。

そして5年後の今

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帰国後もたまにサンタナのイベントにきてくれるくるちゃん

インドに来てから5年経った去年、くるちゃんからの一通の手紙が届きました。そこには「ヒーローになる」という夢に向かって進んでいることについても記されていました。以下抜粋します。

帰国してどんなヒーローになるか考えた結果、一番分かり易い、仮面ライダーのようなヒーロー、つまり俳優になることを選びました。演技の勉強をしていくうちにそれは少しだけ形を変えました。今はTVよりも舞台を中心に俳優活動をしています。帰国して5年、今年ようやくプロ1年目として劇団青年座というところでデビューを果たしました。ヒーローになるという夢は今も変わっていません。演劇によって感動し、心奮え、人生を変える力を持つ俳優になるべく頑張っています。

そして劇団でルーキーとして期待されているとも記されていました。若干の軌道修正はありながらも軸はぶれていません。自分の夢への過程を楽しんでいることが行間から読み取れました。

人生観が変わる!?

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当初「先生じゃない」と言ってきた7年生と

今思い起こしても、学校で子供たちに本気で授業をして、ゲストハウスで本気で盛り上げようとしたり語らったり。そうやって他者とのぶつかり合い、今度は一人になり自分と対話する。くるちゃんはインドでそんなことを繰り返していました。その中で自分の核のようなものに出会っていったんだろうと思うのです。

こういった変化は別にインドでなければならないなんてことはあり得ないでしょう。たまたま、国際協力や日本語教育に興味があり、たまたまインドやサンタナに出会った。そしてカルチャーショックも受けつつ、一生懸命目の前のことに取り組んだ。見たくない自分からも目を背けずに自分との対話を繰り返した。その結果として、より自分らしい自分に出会ったということだと思います。

くるちゃん本人は、そういった自分に出会えたのはインドのお陰だと今でも考えてくれています。どちらにしても、必要なタイミングで必要な他者に出会えるというのは幸せなことでしょうね。

私個人的に、こうした人の変化の瞬間に立ち会えるのはインドにいる大きな理由の1つです。あの「ヒーローになること」と行った時のくるちゃんは既にヒーローでした。男に使う言葉ではないかもしれませんが、美しいという形容詞が似合っていました。

 

さて、青年座の期待のルーキーくるちゃんですが、プロとして近々以下の公演に出演予定です。くるちゃんのヒーローへの過程を見てみませんか。私も次回の帰国の時には是非拝見しようと思っています。

9月出演 箱庭円舞曲「あなただけ元気」 9月8日〜15日@下北沢ザ・スズナリ

10月出演 青年座スタジオ公演「人類最初のキス」 10月17〜23日@青年座劇場